小説/ゆるいかんじ。
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今朝、携帯に知らない番号から着信があった。
僕は心当たりがなく知らんふりをしていたのだが、会社の電話を受けた時に思い出した。
そして、心当たりは十分にあったはずだったのにと今朝の自分に呆れてしまった。
どうして僕は忘れてしまっていたんだろうか。
数日前に会った女の子を。
*‥*‥*
『あの、私…佐倉羽海(うみ)と申しますが、二宮さんはいらっしゃいますか?』
僕は自分の名前に内心ドキリとしながら、平静を装って電話の対応をした。
「こちら二宮です。」
『あ、先日バスでお会いして、名刺をいただいたのでお電話させていただきしました。』
電話を取った時は指名だなんて嫌な話だろうかと少し不安に思っていたが、それは必要なかった。
「あ-、佐倉さんっていうんだ。先日はどうも。
どう?荷物とかは、落ち着いた?」
『はい。仕事もできるように部屋を整理しました!今日は一日中あいているので、いつでもいらして下さい。』
電話を通して、彼女の明るい声が響く。
つい先日あった子だというのになぜか懐かしかった。
「そっか。住所はどの辺?」
『えーっと…なんかよくわからないんでFAX送ります。』
「え?……あ、うん。じゃあ、行く時間決めたらこっちから連絡するよ。」
『はい、待ってます!』
住所がよくわかんないって、大丈夫なんだろうか。
そんなことを考えながら受話器を置いた。
すると、先ほどやっていた仕事に戻って間もなく連絡がやって来た。
「二宮さーん。」
同期の子がFAXをひらひらとさせてにやにや笑っている。
こういう時は決まってその子は意地悪を言う。
「莉子さん、それ僕宛て…だよね?」
僕はそれを受け取ろうとデスクから立ち上がった。
すると、彼女はにやにやとしながら僕から遠ざかる。
そして、僕に背中を向けてFAXに顔を近づける。
またか、と思いながらも彼女の台詞を待った。
「なになに?
二宮さんへ。住所に丸つけときました。わかんなかったら連絡して下さいね。にゃ-ん。
って何コレ?」
彼女は白い目で僕を見ながらその紙を押しつけてきた。
「り、莉子さん?最後の、にゃーんって……?」
僕は少しだけしわのついてしまったFAXを見ると、可愛らしい猫の絵に気づいた。
なるほど。これを読んだのか。
「なんでにゃーんって読んだの?」
「二宮さ-ん。住所って、なんか怪しくないですかー?この子のお家でも行くんですか?」
僕の発言を妨げるように、彼女は言い放つ。少しぶっきらぼうに。
彼女は別に悪い人ではない。
それをよくわかっているから、僕はいつも彼女を責めたりはしない。
「怪しくないよ。今日は作品を見せてもらうんだ。」
「ふーん。」
「FAXありがとう。莉子さん、持ち場に戻っていいよ?」
「言われなくてもわかってるわよっ」
彼女はツンと顔を背けてデスクに戻った。
僕も自分の持ち場に戻る。
送られてきた住所からいって、ここから車で一時間もかからないだろう。
僕は今やっている仕事をなるべく早く終わらせて、そこに向かうことにした。
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